先日、関西に里帰りしたついでに、淡路島の灘黒岩水仙郷に行ってきました。
今回の記事は今が見頃、スイセンについてです。
ニホンスイセンとラッパスイセン
日本国内でスイセン(水仙)と言えば、2つに大別されます。
一つはニホンスイセン(日本水仙)。
花期は12~2月と早く、淡路島の他にも伊豆半島、越前岬などの名所があります。
もう一つはラッパスイセン系。
花期は3~4月。
こちらは信州の街道沿いのような場所でも植えられているのをよく見かけます。
ニホンスイセンは房咲きですが、ラッパスイセンは1本の茎に大きな花を1つ咲かせます。
日本水仙も原産は地中海
冬から早春にかけての、日本の風景でもあるスイセンですが、原産地は地中海沿岸です。
小アジア、中国を経由して日本に伝来したとされますが、時期は平安末期か室町時代か、はっきりしません。
中国ではこの草が海辺を好んでよく育つというので、それで水仙と名づけたのである。仙は仙人の仙で、この草を俗を脱している仙人に擬えたものであろうか。
『植物知識』「スイセン」牧野富太郎
中国での名前、水仙を音読したのが日本での普通名ですが、ニホンスイセンは「日本」と名前が付いていたり、日本古来の花のようでさえあります。
実際には、原産地の地中海から各地へ広がり、それぞれの地域で馴染んでいるのはスイセンの花が持つ力でしょう。
世界中で愛されるスイセンの花
学名をNarcissus Tazetta L.と言い、種名のTazettaはイタリア語で「小さなコーヒーカップ」の意味です。
イスラム教の教えの一つに「パンは身体の糧、スイセンは心の糧」というものがあるそうです。
イギリスでは「daffodil」がスイセン属の総称として使われていますが、何と言っても有名なのは詩人・ワーズワースの作品「The Daffodils」でしょう。
少し抜粋します。
I wandered lonely as a cloud
『The Daffodils』William Wordsworth
That floats on high o’er vales and hills,
When all at once I saw a crowd,
A host of golden daffodils,
Beside the lake, beneath the trees,
Fluttering and dancing in the breeze.
※Googleで検索すると、全文が掲載されているサイトがたくさんあります。検索してみてください。
ワーズワースが一人寂しく、さまよっていると突然、スイセンの大群落に出会った。
黄色のラッパスイセン達は、風に吹かれて揺れていた、という情景です。
ワーズワースの詩は解釈が人それぞれなので訳すのが難しいようですが、大自然の中を心細く歩いていて、偶然に出会う風景が一面に咲くスイセンだったとしたら、その驚きや印象はどれほど鮮烈だろうかと想像します。
また、ワーズワースはその光景の本当の価値を見た瞬間ではなく、後になって理解したというような表現をしています。
海辺を好むスイセン
これら、世界中で愛されるスイセンの風景の多くは、海辺のものです。
日本への伝来はアジアからの海岸漂着説もあります。
スイセンは球根で繁殖し、実を結ばなくてもよくて、つまりは花を咲かせる必要がありません。
また、有毒なので食用にはできません。
遠くシルクロードを経て、海を渡って尚、地中海原産のそのような形質は変わりません。
長い旅の過程で(現在も)、ヒトが介しているわけで、それぞれの花とヒトとの出会いが、更なる旅をさせるのでしょうか。
山辺に旅したスイセン
関西から信州に戻ると、まだまだ冬です。
上の写真は、一昨年の4月、山の上の自宅から麓へ出かけた時に撮ったものです。
自宅の周りは雪が残っているのに、麓に降りるとスイセンが咲いていて、ホントに春が来たのだな、という嬉しさと共に撮影したのを覚えています。
ラッパスイセン系は花期が遅く、信州の山奥のような場所ではさらに遅いですが、名所と同じように、どんな環境でも特別な花になり得るのでしょう。
広大なスイセンの群落であっても、その人為的な拡散は個体と個体=ヒトと植物との出会いの結果です。
今、目の前に咲く花が、その後もずっと心の糧になり続ける事もあります。
海から山へ、スイセンの旅の合間に、僕たちの暮らしもあります。
植物名 | スイセン |
漢字名 | 水仙 |
別名 | セッチュウカ(雪中花) |
学名 | Narcissus Tazetta |
英名 | Daffodil |
科名・属名 | ヒガンバナ科スイセン属(ナルキッスス属) |
原産地 | 地中海沿岸 |
花期 | 12~4月 |
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