「森を活かす仕組み」とは?
『森林未来会議』の副題は「森を活かす仕組みをつくる」です。
この本では、日本の森を活かしていく上で参考になる、海外の事例がたくさん紹介されています。
印象に残った箇所をピックアップしながら、内容を少し紹介します。
『森林未来会議』の序章は速水亨さんによる林業の現実、課題
海外の事例の前に、「序章」は速水亨さんによって日本の林業の現実や課題、そして尾鷲の速水林業の現状について、紹介されています。
※速水林業については以前の記事『日本林業を立て直す』、速水林業の400年の森(大田賀山林へ見学に)で紹介しています。
日本の林業はかつて「足跡が小判」と言われる程、樹々に手間をかけ、高級な木材を販売していました(活況でした)。
しかし、現在はそうではなく、手間暇をかけて木、山を育てても報酬がないような状態です。
そんな中でも、速水林業の場合、新たな市場開拓をしたり、様々な工夫によって育林コストを下げたりしている事も紹介されています。
海外の林業先進国の事例と、日本国内での動き(目指すべき未来)
速水さんの序章の後、第1章から4章まではオーストリアやドイツ、アメリカといった林業の先進国の事例が、第5章から8章までは、日本国内での動きを中心に、ヒントになるような事例も紹介されています。
第1章から終章まで、合計11人の専門家の方によって書かれています。
印象に残った箇所を、少しずつ紹介します。
オーストリアの生産性の高さ
オーストリアの面積は北海道とほぼ同じ、人口は北海道の1.5倍でありながら、GDPは3倍近く、丸太生産量は5倍以上、製材品生産量はほぼ10倍だそうです。
日本全体と比較しても、オーストリアの森林面積は日本の6分の1以下にもかかわらず、素材生産量はあまり変わりません(日本の2180㎥に対してオーストリア1755㎥)。
アメリカでの森林投資型経営
アメリカでは「林地経営が適度に儲かる」状況が生み出されているそうです。
少し引用します。
森林投資型経営が急拡大した2000年代後半、アメリカの大規模育林経営の内部収益率は6%程度となっており、同時期の銀行利子率(4~5%)、国債利回り(4%台)を上回っていた。
『森林未来会議』(第3章「森を有効に活かすアメリカの投資経営とフォレスターの役割」)
何故、そのような事が可能なのか?
詳しくは書きませんが、僕が個人的に羨ましい(?)と感じたのは、キャンプやハイキング、マウンテンバイク等のレクリエーションでの森林利用が多く、関連消費額(6400億ドル)や雇用者数(610万人)が大きいという状況です。
森林を活発に(有効・健全に)利用できれば、当然の事ながら森林の「投資型経営」も可能になり、社会的にも意義がありますよね。
そんな状況がアメリカにはある、と。
チャック・リーヴェル(ローリングストーンズのキーボード奏者)の森
終章で紹介されている、チャック・リーヴェルという人の話しも印象に残りました。
ミュージシャンとして、オールマン・ブラザーズ・バンドやローリングストーンズでも活躍したチャック・リーヴェルは著名な林業家でもあり、彼の森(林地)は1999年、全米で最も優れたツリー・ファームに選ばれたそうです。
チャック・リーヴェルのような人が林業に関わっているという事も、アメリカの森への関心の高さの表れのようにも感じます。
中山間地の「エネルギー自立」
中山間地の「エネルギー自立」によって、地域経済の立て直しができないか。
これは終章で熊崎実さんが述べられている事です。
日本の山村は、1960年頃まで薪炭を生産して都市に供給していたのが、化石燃料の代替によって雇用と収入源を失い、エネルギーも外部から購入するようになっていきました。
山村の「エネルギー自立」というのは、経済的な事はもちろん、精神的な影響も大きいだろうと思います。
僕のような(信州の山間部に住んでいます)地方在住者からすると「エネルギー自立」は、いろんな意味で希望を感じる言葉です。
まとめ
『森林未来会議』には、森や林業に関する専門用語もたくさん出てくるので、誰でも簡単に読み進められるような内容ではありません。
しかし、関連する仕事をしている人や、入門書よりは深く、専門書よりは優しく、そんな本を探している人にぜひともオススメしたいです。
日本の林業の低迷や人工林の問題は(普通に暮らしていると)、先が見えない課題のようにも感じます。
そんな中、『森林未来会議』を読むと「森を活かす仕組み」を作る事は不可能ではない、と思えてきます。
まずは「できる!」というイメージからですよね。
※築地書館のサイトでは『森林未来会議』の「あとがき」などを読む事ができます。
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