ユリノキの実と花、モクレン科の旅(春の香りを待ちながら)

ユリノキの実
ユリノキの実。

ユリノキは街路樹や公園に多い木です。

花期は5~6月頃で、チューリップのような形の花は良い香りがします。

そしてまた、冬の実も、まるで花のような形をしています。

日本で見られるユリノキは全て明治時代以降に植えられたものですが、大昔(数千万年前)には日本列島にも自生していた事がわかっています。

今回の記事では、そんなユリノキについて、特徴や魅力を四季の写真と共に紹介します。

花のように見える、冬のユリノキの実

ユリノキの実
花のようにもみえる、ユリノキの実。

冬、落葉した樹々は幹と枝だけになって、何の木なのか同定する(見分ける)には難易度が上がります。

樹形や樹皮、冬芽などで同定したりしますが、そんな中ユリノキの実は特徴的です。

すぐにそれと解る、花のような形をしているのがユリノキの実です。

名前の由来はユリの花(学名)、英語ではチューリップの木

ユリノキの花
ユリノキの花。

ユリノキという和名は学名「Liriodendron tulipifera」の“lirion”(ユリ)と“dendron”(樹木)から大正天皇が名付けたとされます

英語ではチューリップ・ツリー。

実際の花は、ユリの花にはあまり似ていないように思いますが、チューリップには確かに似ていますね。

いずれにせよ、日本語名も英語名も、冬の実も花のように見える、という意味にも受け取れそうな(個人的な感想です)、そんなユリノキの実です。

ユリノキの実は集合果(翼果)

ユリノキの枝の先にたくさんの実
ユリノキの枝の先にたくさんの実。

この特徴的なユリノキの実は、果実が花弁のように寄り集まっているものです(集合果)。

最初は閉じている実は、乾燥して開いて、やがて種となって飛び立ちます。

風に吹かれて遠くまで行けるよう、工夫された仕組みです(翼果)。

新宿御苑のユリノキ(日本への移入、歴史)

新宿御苑のユリノキ
新宿御苑のユリノキ。新宿御苑で最も背が高い木です。

では、日本で見かけるユリノキは風に乗って広がったのかと言うとそうではなく、ヒトの手によって運ばれたものです。

日本へ来たのは明治時代。

最初期に植えられたのは新宿御苑や小石川植物園で、日本各地の公園や街路樹は、東京から挿し木で全国へと広がりました。

かつては日本にも自生していたユリノキ

「御苑の名木10選」の案内
「御苑の名木10選」の案内。ユリノキは新宿御苑の名木10選の一つです。

面白いのは、イチョウなどと同じく、ユリノキもかつては世界中に分布しており、環境変化によって減少し、わずかに残った自生地からヒトによって広げられた(復活した)事です。

『ユリノキという木』から少し引用します。

ユリノキ属の化石は、北米やグリーンランドの白亜紀層からは多数知られているが、それ以上古い地層からは見つかっていないところから、白亜紀に最も古い型のユリノキ属が出現したものと考えられる。
(中略)
一方、アジアにおいては、まず日本では数カ所の新第三紀中新世中部、ないし上部の地層から報告されており、そのほか、朝鮮半島東岸の中新統、中央アジアのアルタイ地方の新第三系からも報告されている。

『ユリノキという木』※化石のなかの「ユリノキ」より
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ユリノキの末裔はアメリカと中国に

ユリノキの黄葉
ユリノキの黄葉。

今から千数百万年前、日本列島にも繁茂していたユリノキ(ホンシュウユリノキと名付けられています)はその後絶滅し、現在世界に残っているユリノキ属の末裔はアメリカのユリノキ(Liriodendron tulipifera L.)と中国のシナユリノキ(L. chinense Sargent)の2種類だけです。

恐竜も嗅いだ?ユリノキの花の香り

ユリノキの花
ユリノキの花は古代花の形質を残しています。

そうした歴史を知ると、日本各地の街路樹や公園でユリノキが普通に見られるのは、特別な事のように感じます。

私達・ヒトの祖先や恐竜も、ユリノキの花の香りを嗅いだでしょうか。

ユリノキは背が高いので、私達が花の香りや蜜の味を体験するのは案外難しいですが、大きな恐竜にとってはちょうど良い高さだったのかも知れません。

ユリノキはモクレン科(古代植物)

ユリノキの葉
ユリノキの葉。

ユリノキはモクレン科の植物です。

モクレン科は被子植物として最も古い形態を残した植物群です。

以前の記事『神戸のモクレン、鎮魂の白い花(モクレン科の進化とヒト)』でも書きましたが、植物の進化というのは、長い時間と移動を伴っていて、そこに他の生物との共生という、交わりがあります。

その中で、ヒトと植物との共生は、不思議な形を見せる事がありますね。

春の香りを待ちながら

新宿御苑の芝生広場
新宿御苑の芝生広場。2019年6月の風景です。

冬の終わり、樹々を見ていると、芽吹きや開花が楽しみになってきます。

2021年の今年、例年に増して春はまだかと待ち望み、どこかへ旅したいという気持ちが強くなります。

振り返れば、新宿御苑の芝生広場でのんびりユリノキを眺めたのは、なんと平和な時間だったのだろうかと思います。

ユリノキの翼果のように飛んで行く事はできませんが、花の香りを嗅いでいる自分を想像して、春を待ちましょう。

植物名ユリノキ
漢字名百合の木
別名ハンテンボク(半纏木)、チューリップツリー
学名Liriodendron tulipifera
英名Tulip tree
科名・属名モクレン科ユリノキ属
原産地北アメリカ
花期5~6月
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しょうじ(Shoji)
神戸出身、2016年に信州の山奥に移住。植物のある生活、自然の中での生活について、このブログ(サンブーカ)で記事を作っています。食や自転車、インテリアなど“イタリア的な山暮らし”の楽しさもテーマにしています。