綿毛の行方(西洋タンポポと日本タンポポ、キク科について)

タンポポの綿毛
セイヨウタンポポの綿毛。

綿毛といえば、タンポポは最も有名な植物の一つです。

この記事では、セイヨウタンポポ(西洋タンポポ)と在来タンポポの違いや勢力図などについて述べながら、キク科の植物についても簡単に紹介しています。

遠くまで飛んでいく西洋タンポポの綿毛

セイヨウタンポポの綿毛
セイヨウタンポポは総苞片(そうほうへん)が反り返っているのが特徴です。

セイヨウタンポポの綿毛は、在来種のタンポポ(カントウタンポポ、カンサイタンポポ等)よりも果実が軽く、冠毛が多いので遠くまで飛んでいく事ができます。

他にも、単為生殖(受粉の必要がない)、アルカリに強い、ほぼ一年中開花(在来タンポポは春だけ)、といった特徴があります。

タンポポ戦争

コウゾリナの花と綿毛
コウゾリナの花と綿毛。タンポポに似た花で、こちらは在来種。

外来種であるセイヨウタンポポが増えて、在来種のタンポポが減少していく様子は、かつて「タンポポ戦争」と呼ばれ、外国のタンポポと日本のタンポポが戦っているようなイメージを起こさせました。

実際にはタンポポ同士が戦うはずはなく、都市荒廃といった環境変化に順応したのがセイヨウタンポポであり、在来タンポポよりもその能力が高かったというのが本当のところです。

最も進化したキク科の植物

ヒメジョオンとモンキチョウ
ヒメジョオンとモンキチョウ。道端でよく見かける花で、こちらは19世紀に観賞用に移入されました。

タンポポに限らず、帰化植物にキク科が多い事は、その適応力の高さ、進化した形質があるからです。

花頭の周囲には有色の舌状弁がぐるりと環列して招牌の役を務め、その紅、紫、黄、白、橙、藍等の色はよく昆虫をして遠くより花体を認めしむるのである。(中略)それゆえ菊類は植物の中でも一番発達進歩した花すなわち一番高等な花となっている。ほとんど人が動物中で最高等であると同じく、植物の中では菊の類が一番高等な花となっている。

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上記は牧野富太郎博士の「菊」の中の一文です。

現代の菊の花は元々、中国から伝わったもので、その後の品種改良の結果生まれたものですが、日本の野生のキク科の姿にも、園芸種に通じる形質を見つける事ができます。

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キク科の頭状花序=社会

雪をかぶったオヤマボクチ
雪をかぶったオヤマボクチ。キク科ヤマボクチ属の多年草です。信州では、葉を蕎麦のつなぎに使う地方もあります。

小さな花がたくさん集まり、それが一つの花に見えるというキク科の特徴(頭状花序)。

牧野富太郎博士の言葉を借りれば、1個の植物が「社会」を作っているのがキク科の形態上の特徴です。

昆虫が来ると、その小さなたくさんの花にいっせいに受粉できるというメリットに加えて、ヒトも惹きつけ、数百種類もの園芸種へ繋がった事は、それもまたキク科の持つ力と言えます。

時代や社会によって変わる花の役割

ノコンギクの綿毛
ノコンギクの綿毛。日本各地で見られる、野菊を代表する花の一つです。

中国から伝わった後、江戸時代の園芸ブームによって様々な菊が作出され、日本の菊は世界中で評判になります。

明治元年に皇室の紋章になりましたが、やがて国粋主義に利用され、戦争のイメージもついてしまった時代を経て、今は再び観賞用として愛でられています。

野に咲くキク科と、観賞用として作られてきた菊の花と、どちらも、ヒトの生活の拡がりと共に勢力を拡大してきました。

花にどんな想いを重ねるのか、それぞれの時代、社会によって変わります。

均質化を避けた先の多様性

ノハラアザミ
冬枯れのノハラアザミ。春から夏はノアザミ、秋に咲くのはノハラアザミが多いです。

春のタンポポに始まり、ハルジオン、ヒメジョオンと続き、ノゲシやブタナ、アレチノギク、アザミ、そして秋のノコンギクやアキノキリンソウ。

綿毛や、冬の間も残るシルエットには、勝者としてのキク科の逞しさよりも、繊細さを感じます。

外来種、帰化植物に関してはたくさんの課題がありますが、僕たちは本能的に、均質化を避けた方が良い事を知っているのでしょう。

綿毛や枯花にも詩的な感情を持つ、それはヒトの審美眼や優しさといった、大事にしたい形質でもあります。

最適解はその先にあるはずです。

単為生殖のメリットとデメリット

アキノキリンソウ
アキノキリンソウ。リンドウ等と共に、信州の秋を代表する花ですが、綿毛になった姿もなかなか良いものです。

そうそう、タンポポ戦争はまだ決着していません。

冒頭で述べた、セイヨウタンポポの特徴である「単為生殖」は、受粉の必要がなく、自分だけで種(クローン)を作り出せますが、デメリットとして、遺伝的多様性がないので急な環境変化や病気には弱いのです。

反対に、在来タンポポは環境に適応する突然変異を作る事ができます。
キク科が作る「社会」は、僕たちの学びにもなりそうです。

ヒトとキク科の旅

タンポポの綿毛
風に乗って飛んでいく、タンポポの綿毛。

昭和から平成、さらに次の時代へ。

僕たちとキク科の進化はどこに向かうのか。

次の元号について考えたら、風に吹かれて飛んでいけるような(綿毛のように)、自由でのびのびとした、楽しそうな元号であって欲しいと思いますが、どうなるでしょうか。

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2件のコメント

私は川崎市の北部、多摩丘陵に住んでいます。隣は東京です。そんな場所ですが、まだ植物を少しだけ観察することができます。
先日知り合ったおばあ様は、在来たんぽぽを(その方は日本たんぽぽと呼んでいました)守りたくて、お隣の神社の境内に集めていらっしゃいます。珍しいものを見せてもらえて、植物好きとしては拍手喝采でした。
菊科の植物の生き残り戦争を学術的に教えていただき、たいへん勉強になりました。まだまだ知らないことだらけ。不勉強を実感いたしました。

>青山玉恵様
在来タンポポ、そうでしたか(^。^)
我が家のまわりも、こんなに山奥なのに、在来タンポポを見つける事はほとんどありません。
時々、花を裏返してチェックするのですが、概ねセイヨウタンポポです。
多摩丘陵、自然もあって便利で、良いところですね(^^)

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しょうじ(Shoji)
神戸出身、2016年に信州の山奥に移住。植物のある生活、自然の中での生活について、このブログ(サンブーカ)で記事を作っています。食や自転車、インテリアなど“イタリア的な山暮らし”の楽しさもテーマにしています。