『社員をサーフィンに行かせよう』、patagonia創業者の2冊の本

イヴォン・シュイナードとパタゴニアの本
『let my people go surfing』(邦題『社員をサーフィンに行かせよう』)と『レスポンシブル・カンパニー』

日本語版『社員をサーフィンに行かせよう』は東京経済新報社から発行されています(新版はダイヤモンド社から)。

『レスポンシブル・カンパニー』はダイヤモンド社から。

この記事では、パタゴニアの創業者、イヴォン・シュイナードの2冊の本を紹介しながら、パタゴニアという企業についても書いています。

『社員をサーフィンに行かせよう』・『レスポンシブル・カンパニー』、どちらも(日本では)ビジネスマン向け?

英語版と日本語版の比較
『社員をサーフィンに行かせよう』の英語版(左)と日本語版。

どちらの出版社もビジネス書や経済書がメインで、ターゲットは経営者やビジネスマン、MBAに興味がある人、といったところなのでしょうか。

英語版と比べると装丁の美しさやデザイン性が損なわれているのは残念ではありますが、イヴォン・シュイナードのこれらの本(『レスポンシブル・カンパニー』はヴィンセント・スタンリーとの共著)は環境問題の意識が高い人、自然や芸術が好きな人が読んでも、たくさんの学びがある本だと思います。

IPOをしないパタゴニアという企業

Vote the environment(環境に投票を)
Vote the environment(環境に投票を)の広告が紹介されています。

アパレルメーカー、ファッションブランドとして今や世界的な知名度があるパタゴニアですが、IPO(株式公開)はしないというイヴォン・シュイナードの方針があるので、どこのショッピングモールでも見かけるようなメジャーブランドではありません。

しかし、だからこそパタゴニアというブランドの価値や影響力は高く、今の時代を考える上で貴重な存在でもあるのでしょう。

上場すれば資金調達がしやすくなったり、創業者利益が得られたり、夢のある話しのように聞こえます。

シリコンバレーのIT企業の成功等によって「目標はIPO」という風潮は強まっているようにも見えます。

上場そのものは決して悪いものではないし、会社が成長して社会への影響力が大きくなるのは素晴らしい事です。

「会社は誰のものか」という難題

パタゴニアのデニム
パタゴニアのジーンズは、あらゆる面で環境に配慮されて作られています。

しかし、地球温暖化や環境問題、100年後の未来について考えた時「会社は誰のものか」という問いは重く、のしかかってきます。

利益を増やす為に、アパレルメーカーであれば生産拠点を中国やベトナム、アフリカと低コスト(低賃金)を追いかけていく事になりますが、それぞれの国や地域での二酸化炭素排出量、廃棄物量といった環境負荷や、劣悪な労働環境といった人道的な配慮については「善行」が株価にマイナスに働く事になってしまったりします。

拡大と短期利益を優先し、本来的に考慮すべき価値観を軽んじてしまうという難しさ。

ビジネスを行う理由の自問自答

パタゴニアのオーガニックコットンのシャツ
「リペア、リデュース、リサイクル(3R)」は今では広く認知されていますが、パタゴニアは先駆的に取り組んできました。

現代社会の課題、ともすれば説教のようで、敬遠されてしまうようなメッセージを、学校の先生やNPO等とは違う説得力を持って伝えてくれている稀有な存在がパタゴニアという企業だと思います。

社会を良くする為に何ができるか、なぜビジネスを行うのか、自問自答してきた企業の姿を垣間見る事ができます。

パタゴニアの経営が危機に陥っていた1990年前後、シュイナード夫妻と経営陣はフロリダまで出向き、IBMやハーレーダビッドソン社のコンサルティングで有名なマイケル・カミ氏に相談したそうです。

すると「寄付のための資金を作るのが目標」、「(会社を売却すれば)その後の会社の状態が心配」といった考えに対して、未熟さを指摘されます。

経営危機を乗り越えて確立されたミッション・ステートメント

経費の徹底的な削減、20%の従業員を解雇という苦悩を経て後、経営危機を脱する事になりますが、その過程で「ほかの企業が環境的な経営と持続可能性を探るにあたっての手本にできるような会社にしたい」という答え、そして有名なミッション・ステートメント「ビジネスを手段として環境危機に警鐘を鳴らし、解決に向けて実行する」へと帰結していきます。

社会問題への貢献、成果を出す企業と出せない企業・団体

パタゴニアのジーンズの裾部分
パタゴニアのジーンズの裾部分。折り返したら見えるロゴがお気に入りです。

「エコ」「環境に優しい」「持続可能」と言葉にしている企業はたくさんありますが、流行に乗った宣伝文句でしかなかったり、環境保護団体であっても自分達の存続が目的にすり替わってしまっている場合があります。

そうした企業や団体とパタゴニアの差は何か。

パタゴニアのフィロソフィー、製品の質へのこだわりは、一つの答えのような気がします。

最大の注意を払うべき対象は、製品の品質である。優れた品質とは、耐久性があり、天然資源(原材料、一次エネルギー、輸送など)の利用を最小限に抑え、多機能で飽きがこず、用途に最適であることから生じる美が備わっていること。一時的な流行は、断じて企業価値観ではない。

『社員をサーフィンに行かせよう』(私たちの価値観)イヴォン・シュイナード

リサイクルペットボトルで作られた服・シンチラ(フリース)やオーガニックコットンへの切り替え等、今では各社が追随していますが、パタゴニアの持つ哲学ならではだろうと思います。

理屈の前に、機能的で美しい製品によって見せてくれてきた姿勢に、消費者(市民)は共感してきたのだろうし、耳を傾けてきたのです。

企業活動としてのメッセージを受けて

パタゴニア プロビジョンズの「オーガニック・ブラック・ビーン・スープ」
こちらは食品部門「パタゴニア プロビジョンズ」の製品。

僕は昔からパタゴニアの製品カタログも大好きです。

アウトドアスポーツにひたむきに取り組む人たちが書くエッセーや、見入ってしまう美しい写真の数々、独特な文体。

全ては、確固たるフィロソフィーがあってこそでしょう。

「let my people go surfing」がメッセージなのだとしたら、何はともあれ行動しようと思うのです。

日々の買物、仕事、投票に、生き方に。

僕にとってはこのsambuca(サンブーカ)というブログの記事を作る事も一つ。

そして、もしまたイヴォン・シュイナードの新しい本が発売されたら、必ず買おうと思います。

その時は、英語版のようにパタゴニアの美意識も反映した装丁に期待します(笑)。

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しょうじ(Shoji)
神戸出身、2016年に信州の山奥に移住。植物のある生活、自然の中での生活について、このブログ(サンブーカ)で記事を作っています。食や自転車、インテリアなど“イタリア的な山暮らし”の楽しさもテーマにしています。