カツラの木と秋の香り

カツラの木の黄葉
カツラの木の黄葉。

秋の紅葉の楽しみとして、色づいた葉を眺めるという視覚的な体験に加えて、山の中では、香りを嗅ぐという嗅覚的な体験もあります。

紅葉の楽しみ、カツラの木と秋の香り

紅葉した桂の木の葉
黄葉した桂の木。葉の色も形も、そして匂いも楽しめます。

街中での秋の香りの代表格はキンモクセイですが、あの香りを嗅いでいる時の自分は大抵アスファルトの上を歩いていて、他の香りは特に感じなくて、キンモクセイが必要以上に存在を主張しているような、孤軍奮闘(?)、そんなイメージです。

山の中では、いろいろな香りが混じっていて、落ち葉の上を歩く感触や音も合わさって複合的で、それぞれの植物がお互いの夏までの頑張りを称え合っているような、調和している雰囲気を感じます。

カラマツにも含まれる、カツラの葉のマルトールの香り

左の葉のような、乾燥した葉の方が強く香ります。

そんな中、特定の樹種を強く感じられる香りは、信州ではカラマツとカツラの木だと思います。

カラマツ林はほとんどが人工林で、広大な林を視覚で捉えて前もって知っている、いつもの香り(僕にとっては)だし、樹木単体ではなくてカラマツ林全体の中で気づく香りです。

それに対してカツラは渓流沿いのまとまった自生地を除くと、ちらほらと孤立した個体がある程度で、その強い香りは前触れなく漂ってくる事もあります。

醤油のようでもあり、キャラメルのようでもある、その香り

ピンク色のカツラの葉
カツラの葉の色が鮮やかな黄色からピンク色に変わり、秋は深まります。

ショウユノキという呼称もあって、確かに醤油のようでもあり、あるいはキャラメルのようでもあり、人によって印象は違うようですが、一度覚えると間違える事がない、独特なものです。

芳香成分の元は、葉に含まれるマルトールという食品添加物にも使われる物質で、カラマツの樹皮にも含まれているそうで、なるほど信州に住む者にとっては愛着がわく香りなのかもしれません。

秋から冬へ

冬まで残ったカツラの葉
冬まで残ったカツラの葉。

樹々が葉をすっかり落として雪が積もり、その後に続く長く静かな冬。

やがて雪が解け、森の活動の再開をいち早く知らせてくれるのもカツラの木の特徴です。

早春の目立たない小さな赤い花と、印象的な新緑は、春の到来を表現する貴重なシャッターチャンスでもあります。

早春の楽しみ、桂の木の花と芽吹き

カツラの木の花
カツラの花。

カツラの木は、葉が展開する前に花弁も萼(がく)もない、小さな赤い花を咲かせます。

カツラの雌花
芽吹いたばかりのカツラの葉
カツラの葉の芽吹き。葉の展開はサクラの花と同じ時期です。

花の後は葉。

丸いハート型の葉、光を透過する規則正しく並んだ黄緑色の葉は「丁寧に、きっちりと撮影しよう」と思わせるような、初々しさがあります。

秋の色と香りを満喫して冬へ

カツラの木の黄葉
黄葉した葉の連なりは、つい見上げたくなります。

芽吹きの春から夏が来て、実がなり(小さなバナナのような実)、また秋が来る。

カツラの木の実

ふと、あの香りに気づいて見渡すと、そこにはカツラの木があります。

来年も再来年も、その次の年も、秋の森に漂う、調和した空気からカツラの木を探すでしょう。

姿が先か、香りが先か。

視覚か嗅覚か、どの感覚であっても、動機となるのは秋ならではの強いマルトールの香りで、そうして僕たちの五感を使わせるのは植物の力でもあります。

目をつぶって、息を吸い込んだら冬支度です。

色も香りも透明な、長く静かな冬に向けて。

植物名カツラ
漢字名
別名コウノキ、ショウユノキ
学名Cercidiphyllum japonicum
英名Katsura tree
科名・属名カツラ科カツラ属
原産地日本
花期4~5月
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6件のコメント

こんにちは!ずーっとだいぶ前からカツラの香りが知りたいと思っていました。とてもいい香りがすると聞いていたのにいつ出会っても香りがしないのでおかしいなと思っていたら、土の上でないと香らないということを知って驚きました!都会で見かけてもほんとは自然の中にいるべき木なのかな~とも感じました。まだ念願叶っていないのですが近いうちに香りを感じてみたいと思います。草花や木の香り、彩りの変化で季節を感じる…ってホントにいいですよね。都会に住んでいてもそれをちょっとでも見逃さず見つけて感じたいと思っています。

>さきこさん
こんにちは!カツラの葉は、乾燥した葉の方が香りが強いので、必然的に、落ち葉の方が香りますね。
この秋、さきこさんがカツラの葉の香り、体験できるよう、祈っております(^。^)
仰る通り、植物の変化で季節を知るのは、現代ではとても贅沢でもありますね。
都会でも、注意深く見ると自然はあるし、
東京のような巨大な公園がいくつもあるような都市は羨ましくもあります(^。^)

 先生、こんばんは!香りって不思議です。嗅ぐコトで癒されたり、記憶が甦り喜んだり悲しんだり…目に見えない魔法のようなモノですね!実は8月に野外研修に行った際、一瞬ですが、私が住む地域(岡山)の山(主に松・檜・スギ)では嗅いだコトのない匂いがしました。研修中にお借りしていた山はよく手入れされていて、私の知る限りでは背の高い木は檜が多かったように思います。その時の木?の香りを調べてみようと思うのですが、何に例えた(自分の中で)か思い出せないまま、今日に至ってしまいました。しかし、もしかしたら昔、田舎でよく使用していた「ハエ取りリボン」の匂いだったかもしれません…(笑)例えが悪すぎるのですが、先生にお聞きしてみよう!と思いました(^-^)

>tokikoさん
おはようございます!おっしゃる通り、香りは不思議ですね。ふと昔の記憶と現在が繋がったりすると、何か特別な気持ちになったりしますね(^。^)
確かにヒノキ、スギの林も香りがしますね。信州も木曽ヒノキがありますから、ヒノキの香りは馴染みがありますね。
tokikoさんのおっしゃる香りは、そうした針葉樹の香りなのでしょうかね。ヒノキの香りの主成分はカジノールというのですが、
「ハエ取りリボン」の匂いを、僕は知らないので、確かな事はわからないですね。。。いずれにせよ、8月の真夏なので、緑の香り、という事なのでしょうね。
それぞれの地域で、森の香りのイメージも違っているでしょうし、僕も各地の森をもっといろいろと見て回って勉強しないといけないなーと思いました。
ありがとうございます(^。^)

こんにちわ 初めてコメントします。相模原公園でいつも、あ、いい匂い、何?パン屋さんこのあたりにあったっけ?と数年 騒いでました。友人はあまり気づいてくれません。上を向いてどこから匂う?と独り言を言ってたら通りがかりの方が皆さん気づかないのょこの香り、カツラですと教えていただきそれ以来ずっと憧れていました。機会があり念願のカツラの木を手に入れ季節ごとの楽しみに耽っています。樹形や葉っぱの魅力は良く声を掛けられますが香りの事はどなたも知らないようですね。去年の秋から香ってきて今とても幸せ、
新緑も素敵ですが美味しそうなあの香り、今年も早く楽しみたいです。

鳥居様
コメントありがとうございます!
カツラの葉の香り、独特ですよね(^。^)
おっしゃる通り、香りの事をご存じない人も多いので、
昨年、枯葉をダンボールに詰めて
『信州の秋の香り、差し上げます』と発送したのですが、好評でした。
コメントを読んでいて、僕も今からまた秋の香りが楽しみになりました。
※ご自宅にカツラの木があるとは、素晴らしいですね!

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しょうじ(Shoji)
神戸出身、2016年に信州の山奥に移住。植物のある生活、自然の中での生活について、このブログ(サンブーカ)で記事を作っています。食や自転車、インテリアなど“イタリア的な山暮らし”の楽しさもテーマにしています。