ダンコウバイの香りとクスノキ

ダンコウバイの花
ダンコウバイの花。早春、まだ森に緑がない中、葉よりも先に開く黄色い花はとても目を引きます。

ダンコウバイはクスノキ科クロモジ属です。

英語ではクロモジ属の植物は「spicebush」と呼ばれます。

香料の木、というような意味ですね。

この記事では、信州に多いダンコウバイという樹木について、その香りからクスノキという樹木へと関連付けながら、個人的な体験と合わせて紹介します。

信州に多いダンコウバイ、関西に多いクスノキ

ダンコウバイの冬芽(開花直前)
ダンコウバイの冬芽。花芽は開花直前です。

神戸から、信州の山奥に移住して初めての冬。

慣れない寒さや、雪かき、水道の凍結、体調を崩したり、近所の人たちとの付き合い方まで、実際に生活して気づいた大変さ。

それらを振り返るゆとりが出てきた頃、見つけたのがダンコウバイの花でした。

まだ寒さが残る4月中旬、森の緑も少ない中、黄色い花はひと際目立っていました。

木の花としては、この辺りで最も早い時期に咲き、春の訪れを知らせてくれるダンコウバイ。

初めての越冬後の花は格別だったし、その香りは様々な記憶を思い出させてくれました。

熱帯や暖温帯に多く分布するクスノキ科

ダンコウバイの葉
ダンコウバイの葉。クスノキの葉などと同じように三行脈が目立ちます。

ダンコウバイはクスノキ科の植物です。

2000種以上を含むクスノキ科ですが、その多くは東南アジアやブラジルなどの熱帯や暖温帯に分布します。

ほとんどが常緑で、葉は全縁(まれに分裂)、3数性が多く、枝と葉に芳香があります。

クロモジはその芳香から、高級爪楊枝の材料になっていますが、ダンコウバイも同じ香りを持ちます。

月桂樹やシナモンもクスノキ科です。

そして日本のクスノキ科で最も有名なのは、やはりクスノキです。

「楠」という字は「南国から伝わった」という意味で、やはり暖地の木であり、信州の高原のような場所には生育していません。

関西では普通に見られるクスノキ

西長堀くすのきコーポ(現在はジオ北堀江)のクスノキ
西長堀くすのきコーポ(現在はジオ北堀江)のクスノキ。関西では保存樹に指定されているクスノキもよく見かけます。

関西では、クスノキは身近な樹木です。

僕が子どもの頃に住んでいた大阪のマンションは「くすのきコーポ」という名前でクスノキの大木があったし、神戸に引っ越してからも、家の近くの街路樹はクスノキが植えられていました。

公園や植栽でもクスノキは普通に見られます。

また、信州に引っ越す直前に住んでいた須磨のアパートの近くには昔、金子直吉(戦前の神戸の財閥、鈴木商店の大番頭)の住宅がありました。

20世紀初頭、樟脳(クスノキの葉や枝を水蒸気蒸留して作る、セルロイドの原料)の世界最大の生産国だった日本の歴史や、金子直吉が土佐出身であり、僕の祖父と同郷だった事も、親近感が湧くような、縁のようなものを感じました。

クスノキについての記事も作っています。

生田の森

落葉するクスノキ科・ダンコウバイ

ダンコウバイの秋
秋のダンコウバイは、透明感のある黄葉が楽しめます。黒く熟した実はクスノキの実とも似ています。

クスノキ科の植物の多くは常緑樹ですが、ダンコウバイは落葉します。

ハエやアブといった訪花昆虫の目を引く黄色い花や、秋の黄葉。

クスノキとは随分違うように見えて、葉の主脈(三行脈)や、黒く熟した実、そして葉や枝の香りに、共通性を見つけられます。

モクレン科等と共に、原始的な被子植物群であるクスノキ科の進化と分布。

数千万年という長い時間をかけて旅をしてきた木と、僕たちの暮らしが交錯するのは、何でもない事のようでもあり、捉え方によっては特別なイベントになり得ます。

信州の春の到来を告げる、ダンコウバイの花

ダンコウバイの花
ダンコウバイの花。3~4月、葉に先立って、芳香のある黄色い花を咲かせます。

雪解けの信州の山奥で咲くダンコウバイの花

春の到来という嬉しさよりも、冬が終わったという安堵感。

花期が終わっても、葉や枝の香りを嗅ぐと心が落ち着くような、目をつぶると心はどこか別の場所に。

ヒトも植物も、偶然の連続の上に今の生活があるわけで、過去の歩みを辿り、誰かや、どこかとの繋がりを確認したくなるのは、植物とヒトの共同作業の一つなのかも知れません。

ダンコウバイの花
植物名ダンコウバイ
漢字名檀香梅
別名ウコンバナ(鬱金花)
学名Lindera obtusiloba
英名なし
科名・属名クスノキ科クロモジ属
原産地日本、朝鮮半島、中国
花期3~4月
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しょうじ(Shoji)
神戸出身、2016年に信州の山奥に移住。植物のある生活、自然の中での生活について、このブログ(サンブーカ)で記事を作っています。食や自転車、インテリアなど“イタリア的な山暮らし”の楽しさもテーマにしています。