サルオガセとサルオガセモドキは苔なのか?髭なのか?

カラマツにぶら下がる、サルオガセ
カラマツにぶら下がる、サルオガセ。

サルオガセとは、信州の山間部でも見られる、糸状の地衣類の生物です。

そしてサルオガセモドキとは、観葉植物としても人気の、一般的には「ウスネオイデス」や「スパニッシュモス」と呼ばれる、熱帯アメリカ原産の植物です。

サルオガセとサルオガセモドキは全く別の生物ではあるものの、見た目は似ています。

どちらも、苔の仲間のようにも、そして、とろろ昆布や、髭(ヒゲ)のようにも見えます。

今回は、そんなサルオガセとサルオガセモドキについて。

サルオガセとは?(高山植物図鑑に掲載される地衣類)

カラマツの枝に付いたサルオガセ
カラマツの枝に付いたサルオガセ。

サルオガセは信州の山間部のような、高山や寒冷地に分布します。

『日本の高山植物(山渓カラー名鑑)』から少し引用します。

北海道、本州、四国の亜高山帯の針葉樹の枝から長く垂れ下がる糸状の地衣。
(中略)
サルオガセ属は日本に約40種知られているが、外形が似ているものが多く、分類が難しい。

『日本の高山植物(山渓カラー名鑑)』「ナガサルオガセ」より

※『日本の高山植物』は現在、中古でしか手に入りません。

北半球の高山・寒地に分布するサルオガセの仲間

サルオガセ
このサルオガセは上高地にて。※『上高地の冬』の記事で紹介しています。

『日本の高山植物(山渓カラー名鑑)』には、上記の後、サルオガセの「分布」は日本、北半球の高山・寒地、と書かれています。

我が家は信州の山間部、標高1200mくらいなのですが、なるほどたくさんサルオガセを見つけられます。

サルオガセは厳密には植物ではなく地衣類

カラマツ林のサルオガセ
カラマツ林のサルオガセ。

ちなみに、サルオガセは植物図鑑に掲載されていますが、厳密には植物とは区別される、地衣類という生物の一つです。

地衣類とは、菌類(きんるい)が藻類(そうるい)と共生して形作られている生物です(説明が難しいです・・・)。

地衣類は空気がキレイな場所に

地衣類についてはまたいつか記事にしようと思いますが、特徴として、他の生物(植物)が生育できないような厳しい環境にも適応できる反面、大気汚染には弱いとされます。

例えばウメノキゴケという地衣類の一つは、大気汚染の指標とされています。

空気中の水分を利用する地衣類は、汚染物質の影響を受けやすいんですね。

サルオガセモドキとは?(パイナップル科の植物)

サルオガセモドキ(ウスネオイデス・スパニッシュモス)
サルオガセモドキ。「ウスネオイデス」や「スパニッシュモス」と呼ばれる、パイナップ科の植物です。

さて、そんなサルオガセの「モドキ」とされる、サルオガセモドキです。

サルオガセと見た目が似ている、という名付けで、とろろ昆布のような見た目は確かに似ています。

しかし、地衣類であるサルオガセに対して、サルオガセモドキはパイナップル科ハナアナナス属の植物です。

寒冷地のサルオガセと、アメリカ大陸の暖かい地域のサルオガセモドキの見た目が似ているのは、なんだか面白いですよね。

サルオガセモドキは「ウスネオイデス」「スパニッシュモス」の方が有名?

そして、サルオガセモドキは「ウスネオイデス」もしくは「スパニッシュモス」との呼び名の方が一般的だと思います。

天井から吊り下げたり、エアープランツとして飾られているのを見かけます。

「モドキ」が本家(?)よりも有名になってしまった感もあります。

サルオガセの名前の由来と別名

『植物一日一題』牧野富太郎(kindle版)
『植物一日一題』kindle版。※後ろは前述の『日本の高山植物(山渓カラー名鑑)』。

サルオガセモドキという名前が付けられた当時、サルオガセという存在は現在よりも身近だったでしょうか。

少し昔の感覚を、牧野富太郎博士の『植物一日一題』を引用しながら、振り返ります。

サルオガセは猿麻桛(サルオガセ)の意、この麻桛(オガセ)は績んだ麻を纏い掛けて繰る器械であるが、このサルオガセの場合は麻糸(おいと)の意として用いたものだ。

『植物一日一題』「サルオガセ」より
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※『植物一日一題』はkindle(キンドル)だと無料で読めます。

サルオガセの別名に見る、かつての身近さ

『植物一日一題』では、上記の後、様々な呼び名についても紹介されています。

サルオガセの別名(呼び名)

・マツノコケ
・ヤマウバノオクズ
・ヤマウバノオガセ
・キリサルガセ
・クモノハナ
・キヒゲ
・ハナゴケ
・キツネノモトユイ

たくさんありますね。

「松の苔」や「蜘蛛の花」「黄髭」「花苔」などは、見た目の特徴から、納得しやすい名前です。

「狐の元結」というのも、オシャレです。

そして、苔や髭に見立てるのは、日本も欧米も同じなんだなぁと思います。

スパニッシュモス=スペイン苔の前は、スペインの髭

サルオガセは、お爺さんの髭のよう?
サルオガセは、お爺さんの髭のよう?

サルオガセは英語では「old man’s beard」(お爺さんの髭)、サルオガセモドキは「スパニッシュモス」=スペイン苔です(ウスネオイデスは学名から)。

このスペイン苔、「スペイン人の髭」と呼ばれていた時代もあるようです。

フランス人探検家がアメリカ大陸でサルオガセモドキを見て「スペイン人の髭のようだ」と名付けた後、「スペインの苔」へと変わっていったようです。

また、当時のネイティブアメリカンは「木の毛」と呼んでいたようです。

カラマツ林のサルオガセ

触ると細~いブラシのようなサルオガセ
触ると細~いブラシのような、サルオガセの感触。

こうして、たくさんの名前を見てくると、サルオガセもサルオガセモドキ(スパニッシュモス)も、やはりその独特な姿が人々の関心を集めてきたんだと感じます。

そのフワフワは、誰もが気になるんですよね。

「何の植物だろう?」と。

実際には、苔でも髭でも、名前や分類なんてどうでも良いのかもしれません。

ヒトの関心を知ってか知らずか、信州のサルオガセは今日も風に揺れています。

山の中で、ゆらゆらと、ふんわりと。

植物名サルオガセ
漢字名猿麻桛
別名ナガサルオガセなど
学名Usnea longissima
英名Old man’s beard
科名・属名サルオガセ科サルオガセ属
原産地(分布)日本、北半球の高山
花期※花を付けない

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しょうじ(Shoji)
神戸出身、2016年に信州の山奥に移住。植物のある生活、自然の中での生活について、このブログ(サンブーカ)で記事を作っています。食や自転車、インテリアなど“イタリア的な山暮らし”の楽しさもテーマにしています。