ニンニク・オイル・トウガラシ【唐辛子という植物の旅】

アーリオ・オリオ・ペペロンチーノ
ニンニクとオリーブオイル、トウガラシという名前のパスタ「アーリオ・オリオ・ペペロンチーノ」。

アーリオ・オリオ・ペペロンチーノ。

ニンニクとオリーブオイル、トウガラシという3つの食材の名前が並んだパスタは「絶望のパスタ」「夢も希望もないパスタ」「貧乏人のパスタ」という別名もあります。

意外に歴史が短い、トウガラシの野菜としての歴史

トウガラシの赤い実
トウガラシの赤い実。

アーリオ・オリオ・ペペロンチーノ」という名前の由来については諸説あるようですが、ウィキペディアには「貧困のどん底にあってもオリーブ油とニンニクと唐辛子さえあればなんとかなるパスタ」という説が紹介されています。

それほどまでに当たり前にイタリアに存在する、ニンニク、オリーブオイル、トウガラシという3つの食材の中で、意外に歴史が短く、新しいのがトウガラシです。

コロンブスが名付けた「インド諸島のペッパー」(ネーミングの不思議)

トウガラシの花と実
トウガラシの花と実。

ニンニクもオリーブの木も、紀元前からヨーロッパで栽培されていましたが、トウガラシが南米から伝わったのはコロンブス以降です。

ヨーロッパ帰国後に書いた手紙のなかで、コロンブスは島民が、「香辛料でやたらに辛く味付けした」食べ物を食べていたと述べた。彼らは特に、アヒと呼ばれる野菜を使っていた。これがヨーロッパ人と唐辛子(チリペッパー)との最初の出会いだった。コロンブスはこのアヒこそ、自分が探し求めていた胡椒(ペッパー)の一種だと確信し、それを「インド諸島のペッパー」と名づけた。
(中略)
その名称は定着してしまい、トウガラシ属の実もすべてペッパーと呼ばれるようになった。チリという言葉自体は、メキシコのものだった。

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唐辛子はナス科トウガラシ属、胡椒はコショウ科コショウ属

ナス科トウガラシ属と、コショウ科コショウ属という、別の植物が同じ括りで命名されてしまった事は、その後の急速な伝播を考えると、結果的には良い名付けだったのでしょう。

アーリオ・オリオ・ペペロンチーノとイタリア料理はもちろん、豆板醤やカレー、トムヤンクン、キムチに、世界中の様々な料理にトウガラシは欠かせません。

中南米で生まれた形質と世界との出会い

ピーマンの花
ピーマンの花。ピーマンはナス科トウガラシ属の栽培種です。

世界中でトウガラシが受け入れられたのは、単なるコショウの代替品ではなく、トウガラシならではの辛さからでしょう。

辛味の主成分ははカプサイシン(コショウの辛味はピペリン)、別の種類の辛さであり、他の植物にはない成分です。

辛み成分(カプサイシン)はカビから種子を守る為

ピーマンの実
ピーマンの実。

トウガラシは中南米の強い陽射し、紫外線から種子を守るために、実の中を空洞にし、外の皮も分厚くしています。

辛味成分はカビから種子を守る為のものとされますが、人間にとって価値のある成分であった事は、トウガラシにとっても発見だったのか、それとも利用される可能性も考えていたのか。

いずれにせよ、痛覚神経を刺激する辛味をありがたがる、物好きな哺乳類がいるものです。

また、ピーマンはトウガラシの変種の一つですが、その苦味によって子ども達に嫌われます。

未熟な状態もこうして食用にし、苦味や辛味を味わうのは、大人ならではの楽しみです。

日本での普及と肉料理の関係

観賞用トウガラシ
日本では伝来当初、観賞用だったトウガラシ。

日本にも、トウガラシは16世紀に伝来しますが、比較的、控えめな食べられ方だったのは、肉料理が少なかったからでしょうか。

本格的な普及は最近の激辛ブーム以降と言えるのかもしれません。

中山道・奈良井宿のトウガラシ
吊るされたトウガラシ。中山道・奈良井宿にて。

これほど短期間で普及した植物があるのであれば、まだ何か他に、未知なる辛さや苦さ、味があるかもしれないし、既にある形質に、僕たちの味覚が気づいていない場合だってあり得ます。

フライパンの上で弾ける、オリーブオイルとニンニク、トウガラシの音と香り。

その味を知っている僕たちにとっては、既知のものとして、安心感を覚えるような、ゆったりとした時間が流れます。

トウガラシという植物の旅

スペインの鷹の爪(Cayena)
こちらはスペインの鷹の爪(Cayena)。

さらなる辛さを求めて海を渡ったコロンブスの時代から現代へ。

僕たちが何かを求めて西へ東へ、はたまた全く別の方角へ向かうとしたら、やはりそれは既知の体験がそうさせるのであって、未来はその先にあるはずです。

「絶望のパスタ」なのか「希望のパスタ」なのか、実際には痛みである辛さを欲して、ヒトとトウガラシの旅は続きます。

植物名トウガラシ
漢字名唐辛子
別名バンショウ(蕃椒)
学名Capsicum annuum
英名Capsicum、Red pepper
科名・属名ナス科トウガラシ属
原産地熱帯アメリカ
花期6~12月

※この続きの記事『パドロン=スペインのシシトウ?【唐辛子という植物の旅・続編】』を作成しました。

ビールに合う、おつまみ野菜(?)、パドロン
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2件のコメント

こんにちは!ブログの方に移行されてから、なかなかおじゃまできず、やっと読ませていただいていますさらっとは見ていたのですが、これは一つずつゆっくりじっくり読みたいぞと思っておりますペペロンチーノ大好きですパスタで一番好きかも!うーんやっぱりトマト味…とにかくパスタが好きということでしてパスタにはオリーブ油、ニンニク、そしてトウガラシですね。私はその三つが好きだからパスタが好きなのは当たり前ってことですトウガラシはいつもスーパーで買っています。あまり売れないのでしょうか。束で売っていてあっという間にお値下げ品のかごに入っています。二束100円とか、50円になって売られています。そのお値下げ品になったのを買って来ては生け花のように飾ったり、紐にくくってドライにして料理に使って楽しんでいます。そう考えると韓国料理のチゲ鍋やらキムチ、タイ料理のトムヤムクンなどなど私の好きな料理には欠かせない存在でしたわ!ペペロンチーノに戻りますが、あの辛さはもちろん好きですが、さっぷうけなパスタの中に赤いのが入っているだけで可愛いなと思っている私ですしょじよしさんのところを読んでトウガラシが遠く海の向こうからやって来て今に至っていると思うと何だかもっと愛おしくなりましたよ❣️ベランダで育ててみようかな…よって、私にとっては絶望ではなく、やっぱり希望のパスタだな~

>さきこさん
こんにちは!こちらにもコメント、ありがとうございます!
当初はもう少し早く、インスタで告知して、このブログに移行しようと思っていたのですが、
ブログのいろいろな調整とか、記事作成に時間がかかってしまって、
更新頻度は少ないので、過去の記事に遡って読んでいただけるととても嬉しいですd(^_^o)
トウガラシ、良いですよね!
日本では観賞用としての利用が長らく、メインだったようですが、
比較的、気性が穏やかな日本人の特徴とも関連があるのかもしれませんね。
激辛ブームもあり、今後の日本人は変わっていくのかも知れませんが、
植物が持つ形質と、人間に及ぼす影響というのは面白いし、
もっともっと関心が高まれば良いなと思っています。
さきこさんもInstagramで植物の発信をされているし、いわば同志、
ぜひベランダでのトウガラシ栽培も!
今後ともよろしくお願いしますd(^_^o)

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しょうじ(Shoji)
神戸出身、2016年に信州の山奥に移住。植物のある生活、自然の中での生活について、このブログ(サンブーカ)で記事を作っています。食や自転車、インテリアなど“イタリア的な山暮らし”の楽しさもテーマにしています。