トマト=ナス科の野菜(トマトの果実、ジャガイモの花)

加工用トマト
こちらは加工用トマト。生食用よりも赤色が濃いです。

以前に唐辛子についての記事を作ったのですが、他のナス科の野菜についてはまだ記事にしていませんでした。

この記事では、トマトやジャガイモ、ナスなど、主にナス科ナス属の野菜について、信州のハシリドコロなども交えながら、特徴や歴史を紹介します。

トマトやジャガイモなど、ナス科の野菜の多くがナス科ナス属

ナスの花
ナスの花。

トウガラシやピーマンはナス科トウガラシ属で、ナスやトマト、ジャガイモはナス科ナス属です。

ナスはインド東部が原産とされます。

日本には奈良時代に既に伝わっていたようで、なるほど和食での存在感や地域性の豊かさ(伝統野菜)などでも歴史の長さを感じます。

ナスは奈良時代から、トマトとジャガイモはコロンブス以降

ミニトマトの花
ミニトマトの花。萼(ヘタの部分)と花弁、筒状の雄しべで構成されています。

トマトとジャガイモの原産地はアンデス山脈周辺です。

トウガラシと同じように、コロンブスのアメリカ大陸発見後に世界に広まった植物です。

日本ではまだ新しい(?)ジャガイモとトマトの歴史

ミニトマトの実
ミニトマトの実。野生種のトマトはミニトマトのように、小さな実をたくさん付けていたと言われます。

なので、ナスに比べると、ジャガイモやトマトは日本での歴史も短いと言えます。

ジャガイモが広まるのは明治時代以降。

ジャガイモの料理と言えば、肉じゃがやコロッケ、カレーなど。

肉料理とセットになって、日本の食生活が変化してきたのが想像できますね。

なかなか広まらなかったジャガイモとトマト

ピザにフキ味噌を載せて
ピザ。トマトがないイタリア料理なんて想像できないですね。

トマトの日本での普及は第2次世界大戦後です。

ピザやパスタ、トマトケチャップなど、料理を思い浮かべると、やはりジャガイモよりも更に新しい感じがします。

ジャガイモもトマトも、伝わった当初はすぐには広まらなかったようですが、それはヨーロッパも同様のようです。

トマトは長い間、珍しい観賞用の植物として栽培されていた。トマトを食用としたのはイタリアのナポリ王国である。スペインがアメリカ大陸から珍しい植物であるトマトを持ち帰ったとき、まだイタリアという国は成立しておらず、ナポリ王国はスペイン領だったのである。

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『世界史を大きく動かした植物』では、ジャガイモの普及についても紹介されています。

マリー・アントワネットがジャガイモの花を愛し、普及に尽力した事や、“悪魔の植物”としてジャガイモが裁判にかけられた事(!?)、トマトと同じようにジャガイモも当初は観賞用だった事など、たくさんのエピソードが紹介されています。

観賞用から食用へ

ローズマリーのローストポテト
こちらはローズマリーのローストポテト。

大航海時代に始まり、それぞれの土地で時間をかけて食用として定着したジャガイモとトマト。

ジャガイモは地域によっては主食にもなり、トマトはその性質上、主食にはならないにも関わらず、三大穀物(トウモロコシ、小麦、イネ)を除くと、ジャガイモ、ダイズに次いで生産量が多い作物になっています。

有毒植物が多いナス科

トマトソースのパスタ
ナポリでトマトソースが生まれ、やがてアメリカに渡ってからトマトケチャップ、日本ではナポリタンが開発されました。

ここまで広まるには、前述のマリー・アントワネットのような普及活動も必要だったわけですが、その理由の一つとしてナス科の持つ毒性があります。

ジャガイモの食中毒は現代でも時々ニュースになりますが、トマトも茎や葉には毒があります。

当初、ヨーロッパの人々はこれらの毒性によってジャガイモもトマトも敬遠していたそうです。

ナス科の毒性の例:信州ではハシリドコロ

ハシリドコロの花
ハシリドコロの花。こちらはナス科ハシリドコロ属で、全体にアルカロイドを含む毒草です。

ナス科の毒性と言えば、信州の草花でも分かりやすい例があります。

上高地などでも見られる植物、ハシリドコロです。

『日本の野草』(山渓カラー名鑑)によると「猛毒植物で、これを食べると幻覚症状をおこし、ところかまわず走りまわることからこの名がある。」とあります。

花の美しさとは裏腹に、なんとも恐ろしいですね。

他、ナス科のホオズキ(鬼灯)の根にも毒があります。

痩せた土地に強い反面、病害や連作障害のリスクも

ジャガイモ
ジャガイモ。食用になるのは茎(地下茎)。原産地のアンデスでは疫病対策として複数の品種を混ぜて栽培するそうです。

これらナス科の毒性というのは、中世ヨーロッパでも恐れられていたそうで、ジャガイモやトマトの普及には妨げになっていたようです。

しかし、当時の不安定な欧州の食糧事情の改善の為に、特にジャガイモは重要な食物だとされ、フランスではルイ16世やマリー・アントワネット、ドイツではフリードリッヒ二世が、イギリスではエリザベス一世などが普及を促したとされます。

コムギが育たないような寒冷地や痩せた土地でもジャガイモは収穫できる為、その後のヨーロッパの食生活は急速に変化していきます。

アイルランドではジャガイモに依存するあまり、疫病による不作によって大飢饉が起こり(100万人が餓死)、その後のアメリカへの大量移民へと繋がっていきます。

ヒトとナス科の旅の行き先

加工用のトマト
畑の加工用のトマト。トマトジュース等に加工されるので、一般には出回らないそうです。

ヒトもナス科も、海を渡って長い旅をして、現在の生活があります。

先日、畑でトマトの食べ比べをさせてもらいました。

生食用のトマト
こちらは生食用のトマト。加工用に比べると、色が少し薄いです。

加工用のトマトと、生食用トマト(この時は桃太郎トマト)では「別の種類の植物!?」というくらい味が違っていて驚きましたが、トマトもジャガイモも、品種改良によって様々な品種が作りだされています。

増える品種、それでも変わらない本質的な植物の形質

加工用トマトで作るトマトジュース
加工用トマトで作るトマトジュース。

しかし、数千万年にも及ぶ植物の旅によって得られた、本質的な形質は変わりません。

インド原産のナスは強い陽の光を好み、アンデス山脈原産のトマトは冷涼で乾燥した環境を好みます。

「毒々しい」から「健康や元気、情熱」へ(変わるトマトのイメージ)

トマトジュース
加工用トマトで作ったトマトジュース。

かつて、中世ヨーロッパの人たちが「毒々しい」と敬遠した真っ赤なトマトの果実。

時を経て、ピザやパスタ、フライドポテト&ケチャップの味を知ってしまった現代の僕たちにとって、トマトの赤い果実は健康や元気、もしかしたら情熱とか、そんなポジティブなイメージしかないでしょう。

ジャガイモの花の向こうに

ジャガイモの花
ジャガイモの花。白や紫、薄紫色など、いろんな色があります。

ジャガイモの花は、現代の僕たちにとって、収穫物の「おまけ」のような存在なのかもしれません。

しかし、重要な役割を果たしてきた事は歴史として記録されていて、それらを知る事によってヒトならではの成果の積み上げが可能です。

ジャガイモの花の写真を撮っていると、標高4000mのアンデスとかアイルランドとか、心はどこか遠くへ旅をします。

共有してきた悲劇や、中毒的な美味しさや(タバコもナス科です)、そんな既知の経験や知識を元に、ヒトとナス科はもっと遠くへ、未知の場所へと旅できるような気もしてきます。

植物名トマト
漢字名※下記の別名のように複数あり
別名赤茄子(アカナス)、晩茄(バンカ)、小金瓜(コガネウリ)など
学名Solanum lycopersicum
英名Tomato
科名・属名ナス科ナス属
原産地南アメリカ
花期5月~
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しょうじ(Shoji)
神戸出身、2016年に信州の山奥に移住。植物のある生活、自然の中での生活について、このブログ(サンブーカ)で記事を作っています。食や自転車、インテリアなど“イタリア的な山暮らし”の楽しさもテーマにしています。