新緑の信州で目立つ花の一つに、オオカメノキの白い花があります。
カラマツや他の木の葉は芽吹いたばかりで、オオカメノキの真っ白の花は、季節を先取りしたような、何かの間違いで咲いてしまった(!?)ような、それくらい目立ちます。
林縁にも多いので、車を運転していて見える事も多いです。
春に目立つ、オオカメノキの花
遠くからでも目立つ春の花というと、他にはミズキやヤマボウシ、ヤブデマリ、ガマズミなどがあります。
その中でも、オオカメノキは花期が早いのと、山中の歩道脇とか、少し明るい環境で見かける(スポットライトを当てたように見えます)事や、大きな葉と相まって、目立ちます。
大亀の木=亀の甲羅のような、大きな葉
オオカメノキは漢字では「大亀の木」。
確かに、亀の甲羅にも見えますね。
「ムシカリ」(虫狩)という別名もあります。
虫が好んで食べる、というのが由来です(なるほど、虫に食べられていますね)。
オオカメノキの分布(山の中の木)
オオカメノキは、基本的に深山に生育します。
北陸や北日本では低山にもあるようですが、植栽では見かけないし、信州でも標高の高い、山の中の木です。
我が家は信州の山奥、標高1300mくらいです。
家の周りにはオオカメノキがたくさんあるし、登山をすると、標高2000mの稜線上にもたくさん見かけます。
小説『劔岳 点の記』にも登場するオオカメノキ
映画化もされた新田次郎の小説『劔岳 点の記』から少し抜粋します。
ブナの樹林の中に、陽がさしこむような隙間があると、そこには必ずと伝ってもいいように、赤い実を花の冠のようにつけた灌木があった。あまりにも鮮明なその実の赤い輝きに惹かれて、思わず足を止めた柴崎は、その植物の名を長次郎に訊いた。
『劔岳 点の記』(新田次郎)
「ムシカリ(カメノキ)と伝っていますが、冬になるとこの木の皮をカモシカが好んで食べます」
と長次郎は答えた。
『劔岳 点の記』で描写されているのは、夏の赤い実です。
春の白い花の後、赤い実が熟して黒くなり、秋は紅葉。
どの姿も印象的ですが、雪の中で見つける冬芽の姿もそうです。
冬芽も見どころ(雪の季節も目立つ、その形)
バンザイしているように見えたり、ウルトラマンのように見えたり、一度見ると忘れない、その形。
冬芽観察で、最も有名な樹種の一つがオオカメノキなのではないかと思います。
雪山を歩いている時も、見つけるとついつい写真を撮りたくなります。
山暮らしの中のオオカメノキ
上高地の遊歩道沿いにも、オオカメノキをたくさん見かけます。我が家よりも花期は遅く、標高が低いところから高いところへ、順番に季節が訪れます(上高地の標高は約1500m)。
今頃は、2000mの稜線上で咲いているかな? と想像します。
オオカメノキで知る、山暮らしならではの季節の巡り。
白い花で、春から夏へと強まる陽射しを、赤く熟した実で短い夏を、色づいた大きな葉で秋の深まりを実感し、バンザイしながらパワーを溜める冬。
鳥のように、実を食べて種を運ぶというような共同作業を介さずとも、ヒトは植物によって自分達の居場所や季節、旅を印象付けます。
植物を見て、美しさやユーモアを感じるとすれば、それはとても重要な何かなのでしょう。
冬の厳しさや、短い夏を共にする、山暮らしの友達。
そんな風に感じさせてくれるオオカメノキ。
冬になったら、また一緒に雪の中でバンザイをしましょうか。
もちろんその前に、夏の赤い実です。
※この続きの記事『オオカメノキ(ムシカリ)の実と紅葉、ガマズミ属の旅』を作成しました。
植物名 | オオカメノキ |
漢字名 | 大亀の木 |
別名 | ムシカリ(虫狩) |
学名 | Viburnum furcatum |
英名 | Scarlet leaved viburnum |
科名・属名 | レンプクソウ科ガマズミ属※旧スイカズラ科 |
原産地 | 日本、台湾、中国など |
花期 | 4~6月 |
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